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書評

ロバート・A・ダール著、杉田敦訳『アメリカ憲法は民主的か』

岩波書店2003.9.刊行

東洋経済2003.12/27-2004.1/3合併号105

 

 

 

 民主主義を米国から学んできた日本人には奇妙に聞こえるかもしれないが、本書は米国の民主制が未熟だと主張する。しかもその原因は憲法にあるという。

ブッシュ大統領が対立候補のゴアよりも少ない得票数で選出されたのは、選挙制度に問題があったからだろう。また女性議員の割合、投票率、貧富の格差克服などの評価において、米国は世界の民主政の下位五分の一に位置するという。こうした統治力の低迷は、上院制や大統領制に起因するというのが本書の示唆だ。

 例えば米国の上院は、各州から同数の代表者によって構成されており、人口比に応じた代表民主制になっていない。ネヴァダ州民の票は、カリフォルニア州民の票の一七倍もの重みがある。結果として小さな州の代表者たち(主に共和党)が議会で権力を握り、憲法改正を阻んでいるのが現実だ。(ちなみにアメリカの上院よりも不平等な選出方法をもつ連邦制は、ブラジルとアルゼンチンだけである。)

大統領制について言えば、それは当初、賢人たちによって運営されるよう意図されていたが、次第に「大統領はすべての国民の代表」という神話が生み出され、機能不全に陥っている。

もしかすると米国は、議院内閣制を採用したほうが真の民主国家として成熟するかもしれない。なるほど憲法起草当時(1787)には議院内閣制のモデルが存在しなかったが、憲法の発案者たちはそれに近い政体を採用すべく議論を重ねていた。しかし結局合意には至らず、最後は「やけっぱち」で大統領制が選択されたのだという。つまり、米国憲法は急ごしらえの妥協の産物にすぎないのであり、国民はこれを絶対視する必要はない。むしろその欠陥を自覚しながら民主主義の成熟を模索すべきだと著者は訴える。極めて啓発に富んだ一冊だ。

 

橋本努(北海道大助教授)